鋼鉄の兄弟たちに、気の休まる瞬間はない!! 地球が見えてきてもどんどこ運命が回り、労働者蜂起の只中に巻き込まれた鉄華団がどんどん凄いことになる、第17回目のオルフェンズ。
血が繋がっていたりいなかったり、同じ道を歩めたり歩めなかったり、様々な形の家族の姿を映すことで、ひじょうに多くの人間模様を移しつつ統一性のある、面白い脚本になっていました。
兄の手を解き鉄華団の手をとったビスケット、姉と慕ったフミタンの手を解いてしまったクーデリアと、『手』をメタファーに使って関係を見せる作りも、インパクトと叙情性を両立させていてよかったですね。

宇宙世紀の群像劇として、色んなキャラクターが忙しく走り回るのがオルフェンズの劇作ですが、今回は特に場面が複数に分割されており、少し混乱しました。
まとめると

1 武器を運びこんできたオルガ/ナボナ組
2 拉致されたビスケット&アトラ/サバラン組
3 難を逃れたミカ&クーデリア/フミタン組+謎の仮面マン

という3組がお話の最初の段階では存在していて、ミカがカチコミをかけ仮面マンがお嬢とフミタンをバラバラにして3が解散、1と2とミカが合流しつつ、フミタンとクーデリアが個別に行動する所で終わったのかな。
それぞれの組は同じお話しの別々の問題に光を当てていて、鉄華団メンバーがコロニーの現実とクーデリアを取り巻く陰謀を知るべく、一人ずつNPCが用意されている感じですか。


オルガ達は比較的落ち着いているというか、『武装蜂起のホームラン王』ナボナさんと語らうことで、コロニーの腐った現実を見る(見せる)立場です。
ナボナさんは爆発しそうな下の層の代表として、スラムから這い上がって下との窓口になっているサバランともコンタクトがあるので、1チームと2チームをつなぐキャラだといえます。
上の連中が利益を吸い上げ、下層民が日干しになりかけているという現状は稼いでも地球圏でも対して変わらんわけですが、ここらへんに尺を使わずとも結構納得がいくのは、これまでの描写蓄財が生きているところです。
火星のガキたちがどういう地獄を生きているか、ギャラルホルンの上層部がどれだけ綺麗な場所で生きてきたのかはちゃんと描いてきたので、『そこと同じ』ならある程度以上省略が効くわけですね。

鉄華団がコロニーに付いた時には既に社会不安という導火線は用意されていて、武器輸出はそれに火をつける最後の一手だったため、暴動とその鎮圧(という名前の虐殺)を前に鉄華団が出来ることは実はあんまりありません。
遅かれ早かれ起こることを、ギャラルホルン治安局が管理できる形で爆発させる火種に選ばれただけというのが、鉄華団の立場なわけです。
ついでにクーデリアを消してその死を都合の良い宣伝材料に使えれば一挙両得という状態なわけですが、それに関しては『家族』を命がけで守る鉄華団の掟が阻む、という感じでしょうか。
武装蜂起それ自体を止める方向に動かない(実際止める手段がなさすぎる)ところは、鉄華団の家族主義のドライな現実性が良く出ていると思います。


火星で新しい家族を見つけたビスケットには他人でも、ずっとコロニーで生き延び、スラムから這い上がったサバラン兄さんにとって虐殺で殺される人たちは、守るべき『家族』の延長線上にいます。
今回ビスケを罠にはめ、アトラをぶん殴らせた(ネタっぽい棒読みからのガチ暴力は、ショッキングな落差だった)サバラン兄さんの身勝手は、実は鉄華団の家族主義と背中合わせだったりする。
『誰かにとっての他人が、誰かにとっての家族』という対象的なアングルの取り方は、ブルワーズにおけるヒューマン・デブリの扱いに通じるものがありますね。

今回激情を迸らせ、感謝の言葉と別れの挨拶を兄に対して投げつけたビスケですが、彼はサバランと鉄華団という、二つの家族に挟まれる立場にいます。
最終的に鉄華団を選び、兄の泣き落としを蹴り飛ばす流れの前に、情と理屈に訴えかけどうにか『筋』を通そうと足掻いているのが、健気で綺麗で哀しかったです。
ビスケが差し出したまっとうな道を受け入れる余裕はサバラン兄さんにはなく、その拒絶がまわり回って最後の別れに繋がるところは、どうにも世知辛い浮世の因業を感じさせ、胸が苦しくなるところです。

ビスケとしても、尊敬する兄との対面は胸の高鳴るイベントで、可能であれば普通の兄弟のように温かい関係を築きたかったというのは、サバランの姿を目に止めた後の細やかな仕草の作画でよく伝わってきます。
しかしギャラルホルンが支配する世界の圧力、それを加速させ膿を出そうとする治安局の陰謀は生っちょろい感傷を蹴り飛ばし、シビアな選択を全ての存在に強いる。
ビスケが鉄華団を選んだ選択が価値が有るものだとすれば、かなり詰んだ状況でどうにか死人が少ない道を探したサバラン兄さんの選択もまた、ある程度以上の価値が認められるべきではないかと、僕は感じました。

運命の悪戯で拉致られ殴られたアトラですが、再開に怯えるビスケを後押しする優しさ、相手の誤解を利用する賢さ、クーデリアを守るために身を挺した決意と、彼女を好きになれるシーンがたくさんありました。
MSにも乗れない、革命指導者でもないただの飯炊き女ですが、そこに秘められた勇気は凄く強くて熱く、小さなヒーローとしての資質を十分に感じました。
それを支えているのが『家族』へのこだわりであり、クーデリアとの連帯が育まれていく過程を、丁寧に描いた成果が今回うまく実りましたね。
ただ立ち向かう強さだけではなく、人を受け入れ励ます優しさも描いているところが、アトラという小さな女の子を凄く靭やかに感じられるポイントだと思います。


そんなアトラに守られる『家族』クーデリアと、クーデリアが信じ守りたい『家族』であるフミタンの物語も、一気に加速していました。
陰謀のために送り込まれながら、その真っ直ぐな瞳にいつの間にか惹かれ、生き方を変えてしまっていたフミタン。
彼女を変えたのがクーデリアの裏表のない性根だということも、アクセサリーを印象的に浸かったこれまでの蓄積で丁寧に語られてきたので、今回フミタンが見せた変節と決意はとても素直に受け止められました。
群像劇として多人数を扱いつつ、キャラが印象に残っていてそれぞれの物語を見逃したくないなと思えるのは、やはりお話しの要素の整理が上手く、それをどう積み重ねどのタイミングで有効活用するか、見通しがしっかり立っているからだと感じます。

スパイとしての顔と、クーデリアのメイドにして姉という顔。
ビスケットと同じように、今回のフミタンも二つの立場の間で迷い、一つの決断をするキャラクターです。
決断には責任が伴うというのは、フミタンが今回何度も口にした言葉なわけですが、これほど煮えたぎった鉄火場での責任の取り方というと、どうしても命にまつわるものを想起してしまいます。
お話しの圧力的には血を見ないと収まらないだろうし、仮面マンが言っていたように『フミタンの死を通じて人間的に成長してやるッ!』という劇作上の狙いもあるんでしょうが、本音を言えば死んでほしくない……。
『綺麗なものだから汚したかった』『でも汚れなかったあなたに気づけば惹かれていた』という言葉に込められた感情の熱量は凄いものがあって、人が人に思いつめる様子が(恋愛だろうとそうじゃなかろうと)好きな自分としては、ぐっとフミタンの心情に歩み寄れる気持ちになる描写でした。

迷いの果てにオルガの伸ばした手を掴んだビスケに対し、お嬢はフミタンの腕を掴んでいた手を離し、混迷の中に踏み込んでいく立ち位置です。
一回迷いを経ないと答えに説得力が薄くなるわけで、そういう意味でも場をかき回した仮面マンはなかなか良い仕事をしたわけですが、クーデリアがこの状況で何を見つけ、何を決断するかは大事だと思います。
お嬢が今巻き込まれているのはフミタンとの関係変化であると同時に、革命家としての彼女を葬る陰謀であり、革命家として立ち向かうべき社会の矛盾そのものなわけです。
個人的な問題と社会的な問題が巧く重なりあった状況を、どう乗りこなしていくか。
クーデリアというキャラクターがより強い説得力を持てるか否かの分岐点が目の前にあるわけで、ここからのお嬢の迷いとその解決は、シリーズ全体の説得力に関わる勘所だと思います。


そんなお嬢の護衛をしつつ、ワンマンアーミーとしてアトラたちを救出した三日月。
アトラに降りかかった暴力を認識した瞬間の殺すスイッチの入り方はさすが狂犬という感じですが、彼のシンプルな『家族/家族以外』という価値観は、今回二つの『家族』の間で迷った二人の若者と、面白い対比をなしています。
オルガに対する複雑な感情も覗かせていますし、そのうちミカもまた『誰が家族なのか』に悩み、決断する瞬間が来る気がしますね。

そしてジョーカーッ面でやって来た謎の仮面マンは、まぁどう見てもマクギリス先生だった。
わざわざ顔を隠してまでクーデリアを生き残らせる算段をつけていますが、ロリータを誑し込み出世の階段を登って達成したい野望と、今回の行動がどう繋がるのかは未だ不明瞭なままです。
これはマクギリスの狙いと直結する部分なので、なかなか明らかにはならないと思いますが、コロニー編に入ってギャラルホルンの支配体制がどんだけ腐ってるか強調されているのと合わせて、世界に風穴を開けて空気を良くしたいのかなぁ……。
そういう大望を抱いているとなると、実はマクギリスはMS乗りとしてミカと対峙する存在であると同時に、非戦闘的改革を導くクーデリアとも向かい合う、結構複雑なキャラなのだろうか。
未だ妄想の域を出ませんが、あのオッサン面白いキャラなので巧く使って欲しいですね……何だよあの仮面のギミック、アーカイブでギアスでも見たのか。


というわけで、様々な『家族』の運命が交錯し、勇気を以って決断を果たすものあり、さらなる混乱の中に飛び込むものあり、オルフェンズらしい多層的なお話が展開されました。
やっぱゴロゴロとお話が転がる勢いがとても面白いアニメで、MS戦闘だけが緊張感を維持する手段ではないなと、つくづく思い知らされます。
ビスケが果たした決断の行方、クーデリアとフミタンの迷妄の行方。
一体どういう形に収まるのか、楽しみに待ちたいオルフェンズでした。